酪農と聞いてイメージするものといえば、緑の牧場に牛が放し飼いにされていて、のんびりと過ごしているような風景ではないでしょうか。
ただ、実際は酪農のスタイルはさまざまで、広い場所に牛を放牧する以外にもいくつかスタイルがあります。
今回は、酪農における放牧と、放牧以外の牛の飼育方法についてご紹介します。
酪農における放牧とは
放牧とは、牛や馬などの家畜を畜舎ではない場所で飼うことを言います。
酪農といえば広い場所で牛がゆったり過ごしている風景を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、実際には酪農において放牧で飼養されている牛は全体の約20%程度となっています。
狭い場所で限られた頭数の牛を放牧することも可能ですが、ある程度の頭数を飼育する場合、かなり広い土地が必要です。
そのため、北海道や九州の阿蘇など、放牧が盛んに行われているのは森林を切り開いて開拓しなくても、もともと広い土地があるエリアとなっています。
放牧とそれ以外の牧場
牧場は、放牧だけでなくさまざまな方法で牛を飼育しています。
主に取り入れられているのは下記の通りです。
繋ぎ牛舎
繋ぎ牛舎は、牛を一頭一頭繋いで飼育する牛舎のことです。
少ない頭数の飼育で採用されることが多く、日本の小さな酪農家はこのカタチを採用していることが多いです。
牛が一頭一頭繋がれているため管理がしやすく、家族経営の酪農家でも少ない労働力で運営ができるメリットがあります。
フリーストール・フリーバーン牛舎
建物の中を牛が自由に動き回れるスタイルの牛舎を、フリーストール牛舎、フリーバーン牛舎と呼びます。
繋ぎ牛舎に比べて同じスペース内により多くの牛を飼育することができるため、メガファーム、ギガファームなど、頭数の多い牛舎に適した飼育方法と言えます。
牛の寝るベッドが一頭ごとに仕切りがある牛舎をフリーストール、牛のベッドを区切らずどこでも自由に寝られるようにし た牛舎をフリーバーンと呼びます。
ちなみに、四国最大級の農場である将基酪農もこのスタイルを取り入れています。
放牧
放牧は基本的には牛を牛舎で育てつつ、時間帯を決めて牧草地に放し飼いにするスタイルです。
広い場所が必要にはなりますが、牛が自ら牧草を食べるため、飼養管理や飼料生産の省力化が可能です。
さらに、広い環境に牛を放し飼いできるため、牛のストレスが軽減できるメリットがあります。
一方で、朝夕の搾乳は牛舎で行う必要があるため、牛舎の隣に広い牧草地が必要になります。
そのため、広大な土地があるエリア以外では放牧が難しい現状もあります。
放牧の種類
放牧には、大きく分けると3つの種類があります。
パドック放牧
パドック放牧は、牛舎に隣接されるパドックに牛を放し飼いにするスタイルの放牧です。
小規模からでも始められるスタイルで、初期投資も比較的安めなのがポイント。
一方で、限られた面積で放牧をするため、雨天や降雪などで地面が泥濘化する可能性があります。
耕作放棄地放牧
過去1年以上耕作していない田んぼや畑などで、今後も作物を栽培する意思のない場所に牛を放し飼いにし、そこに育っている野草を食べてもらう放牧です。
そこに生育する野草を活用できるため、草が伸び放題になってしまう状況になりにくい上、害獣防止効果も期待できます。
牛舎から離れた場所で放牧するため手間は発生するものの、牛のストレスが軽減できるなどのメリットもあることから耕作放棄地放牧の需要が高まっています。
耕作放棄地は年々増え続けており、害虫や野生動物の発生、不法投棄の増加や景観が損なわれるなどさまざまな問題があります。
耕作放棄地放牧はこういった問題を解消する一助にもなっています。
ただ、放牧に手間がかかることもあり、大規模な農場での放牧には向かない傾向にあります。
集約放牧
集約放牧は一般的な放牧スタイルです。
広々とした土地に牛を放し飼いにしているイメージが強いですが、実際には外周柵を使って家畜を移動させながら放牧させる場所を調整し、短く栄養価の高い牧草を食べさせることで生産性を高める工夫をしています。
広大な土地を使って牛を放し飼いにするため、自分で所有している土地ではなく、地方自治体や農協、地元の農民グループなどで共同所有しているケースもあります。
そのため、自分で所有している土地での放牧を「経営内放牧」、そうでないものを「公共放牧」と呼び、使い分けています。
放牧のメリットと留意点
放牧には牛のストレス軽減や健康の増進、飼料をはじめとするコストの削減、労働時間の軽減など、さまざまなメリットがあります。
一方で、広々とした土地を簡単に用意できないことや、ある程度専門知識を持っていないと難しいことなどの注意点もあり、簡単にできるものではありません。
観光の側面から見た放牧
自然に囲まれた土地での放牧は観光の側面でも需要があります。
大自然の中で牛を放し飼いにしている風景を堪能しながらソフトクリームを食べたり、広々とした景観の中でバーベキューを楽しんだりできるようにして、観光客を集めている農場もあります。